府中地区医師会

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2020年9月24日更新

藤野昌言先生記念講演会に代えて

今年も藤野昌言先生の命日である10月6日が近づいてきました。例年この時期には感染症に関する市民公開講座として記念講演会を開催しており、本来であれば15回目の講演会となるはずでしたが、今年はコロナ禍にあって開催中止となってしまいました。

皆様もご存知のように昌言先生は明治12年のコレラ流行時に命を賭して治療に当たられ、お亡くなりになられました。48歳の若さでした。当時のコレラの流行とこの度の新型コロナ感染症(COVID19)と少し似ているところもあるように感じますので比べてみたいと思います。

まず似ているところといえば、全国的に流行していること、重篤化すれば死に至ること、そしてまだ治療法が確立されていないことなどが言えると思います。

明治12年にコレラが流行した時には患者数は162,637人で死亡者は105,786人でした(死亡率65%)。COVID19の方は今のところ日本での感染者数は約79,000人で死亡者は約1,500人ですが、これからまだ増えていくと思われます。

当時のコレラはまだ原因も不明で、地域によっては致死率が80%にもなったこともありますし、急激に重症化し死亡することもあってコロリと呼ばれたこともあるほど恐れられていました。コレラ対策としては今までの経験を元に清潔を保つ、換気をよくする、適度な運動や食事に気を付けることを勧めていました。その後さらに部屋を乾燥させ、井戸水を飲まないように、生ものを摂らないようにという対策も取られるようになりました。

ちなみにコッホがコレラ菌を発見したのが、明治17年です。COVID19はコロナウイルスによるものであるとわかっていますが、現在のところまだ有効な治療法が確立しておらず、対症療法しかない状況ですが、病態に応じてどう対応していくのがよいか少しずつ知見が得られてきています。とはいっても感染しないようにするのが最も大切で、その意味においてはコレラもCOVID19も似たところがあるようです。コレラは腸の、COVID19は肺の感染症ですので対策は異なるところも多いですが、予防が大事という点では共通しています。

当時のコレラは致死率も高く恐れられていましたが、助かれば後遺症を残すことは少なく、今では適切な治療さえ行えば予後の良い疾患です。COVID19は命が助かっても様々な後遺症が残ることがあり、できるだけ感染しないようにした方がよいですし、また高齢者は死亡率が高いので気を付けましょう。

ところでコレラに感染してどうして命を落としてしまうかご存知でしょうか。それは激しい下痢を起こして著しい脱水、電解質異常を起こしてしまうからです。重症例では1日に体重1㎏あたり250mlの水分が失われてしまうこともあります(60㎏の人でしたら1日に15Lになります)。経口補液剤や点滴で治療し、重篤な場合は抗菌剤が使用されます。 この冬はインフルエンザ、COVID19の流行が重なることも考えておかないといけません。インフルエンザ予防接種を受けることをお勧めします。特に高齢者の方は早めに受けるようにしましょう。そして何よりも感染予防が大切です。3密を避け、マスクを着用し、手洗い・手指消毒の励行を心掛けましょう。これらの対策をきちんととっていけばそう感染しやすいものではないようです。今後ワクチンや特効薬が開発され、しかも副作用がなく効果の高いものであることを願っています。

令和2年9月22日

府中地区医師会 会長 内藤 賢一